固有関数が直交する内積の定義

固有ベクトルの正規直交化」で書いた方法だと、固有関数が分かってしかもそれがなす変換の逆変換がわからないと直交化できなかった。これじゃぁあまり役に立たないので、ちょっと再考してみた。
(ちなみにSchmidtの直交化とは方向性がすこし異なります。あれは固有値の異なる固有関数を混ぜてしまうので、もはや固有関数ではなくなってしまいます。Schmidtの直交化では内積の定義の変更はしません。)



固有値問題

  • Ax=\lambda x

がある。ここで正則な線形変換Tによって

  • y=Tx

として、yが直交基底になるようにしたい。このyで固有値問題を書き換えると

  • TAT^{-1}y=\lambda y

になる。ならば線形変換B=TAT^{-1}の固有関数が普通の内積の意味で直交基底になれば良い。そのときに、内積

  • \left({x_1,x_2}\right)\equiv y_1^\dag y_2 = x_1^\dag P x_2

と定義すればよい。ここでP\equiv T^\dag T とした。ゆえにPは正定値である。このようなPを決定することが目標。





線形変換Bの固有関数が普通の内積の意味で直交基底をなす必要十分条件は、Bが正規変換

  • \left[{B,B^\dag}\right]=0

であること。また、これへの十分条件(物理系などで固有値を実数に限定する場合)として自己共役

  • B=B^\dag

の方が計算上ラクなので、こっちも留意しておく。
ここでB=TAT^{-1}であったので、自己共役はB^\dag={T^\dag}^{-1}A^\dag T^\dagであり、これを正規変換の式に代入して変形すると

  • \left[{PAP^{-1},A^\dag}\right]=0

となる。逆に言えばこのような正定値線形変換を求めれば直交化できるということになる。固有値を実数に限定するのなら、自己共役の式から

  • PA=A^\dag P

となる。






:線形変換

  • D\equiv\frac{1}{i}\left( {t + \frac{{d}}{{dt}}} \right)

についての固有値問題Dx = \omega xの固有関数

  • x_\omega (t)=\exp \left( {i\omega t - \frac{{t^2}}{2}} \right)

は普通の内積の定義

  • \left( {{x_1},{x_2}} \right) \equiv \int {{x_1} (t)^* {x_2}(t)dt}

だと直交でない。

そこで、自己共役化の式を使って固有関数が直交になるような内積の定義を提示することを目指す。





線形変換Pを正値関数\rho (t)を掛けることに限定する。(このような\rhoが見つけられれば目的は果たされる。これを重み関数と呼ぶらしい。)

  • P\equiv \rho (t)

線形変換DのエルミートD^\dag

  • D^\dag=-\frac{1}{i}\left( {t - \frac{{d}}{{dt}}} \right)

そこで、自己共役化の式は

  • \rho\frac{1}{i}\left( {t + \frac{{d}}{{dt}}} \right)x=-\frac{1}{i}\left( {t - \frac{{d}}{{dt}}} \right)\frac{x}{\rho} <=> \frac{{d\rho }}{{dt}} = 2t\rho

となる。これを解いて、重み関数を

  • \rho (t) =\frac{1}{2\pi}\exp \left( {{t^2}} \right)

とする。よって改めて内積

  • \left( {{x_1},{x_2}} \right) \equiv \frac{1}{2\pi} \int {{x_1} (t)^* {x_2} (t) \exp \left( {{t^2}} \right) dt}

と定義する。このとき固有関数について

  • \left( {{x_{\omega_1}},{x_{\omega_2}}} \right) = \frac{1}{2\pi}\int {\exp\left[{ i \left( {\omega_2-\omega_1 } \right) t }\right]  dt} = \delta  \left( {\omega_2-\omega_1 } \right)

となって確かに直交してますね。





特殊関数論に出てくるエルミート微分方程式の解、エルミート多項式が普通の内積では直交してなくても重み関数をはさむ事で直交化できますというのがこのお話の一例。そっちを書いたほうが物理屋さんが喜んでよかったかなw




追記: どうやら、次のような正定値行列P

  • \left[{PAP^{-1},A^\dag}\right]=0

が存在するという条件は、行列Aが対角化可能であることと同値であるような気がする。