一般の行列に対する交換条件

ジョルダン細胞に対する交換条件/多重線形代数」の続き


ジョルダン細胞だけではなくジョルダン標準形に対して交換可能な行列がどのような形になるべきかが分かった。一般の行列に対してはこれを応用することで得られる。(後述)


まず、対角に正方行列が並んだ行列を考えよう。

  • A=\left( {\begin{array}{c}   {{A_1}} & {} & {} & {}  \\   {} & {{A_2}} & {} & {}  \\   {} & {} &  \ddots  & {}  \\   {} & {} & {} & {{A_n}}  \\\end{array}} \right)

これと交換する行列について考える。その行列もAの表と同じような区切り方をする。

  • B=\left( {\begin{array}{c}   {{B_{11}}} & {{B_{12}}} &  \cdots  & {{B_{1n}}}  \\   {{B_{21}}} & {{B_{22}}} & {} & {{B_{2n}}}  \\    \vdots  & {} &  \ddots  &  \vdots   \\   {{B_{n1}}} & {{B_{n2}}} &  \cdots  & {{B_{nn}}}  \\\end{array}} \right)

すると、交換条件\left[{A,B}\right]=0を計算することにより、

  • A_iB_{ij}=B_{ij}A_j

必要十分条件であることが分かる。注意したいのはA_iiによってサイズが違うことがありB_{ij}も正方行列とは限らないということだ。あとでこの交換条件を使う。




ジョルダン標準形は

  • \left( {\begin{array}{c}   {J_{{\lambda _1}}^{{d_1}}} & {} & {} & {}  \\   {} & {J_{{\lambda _2}}^{{d_2}}} & {} & {}  \\   {} & {} &  \ddots  & {}  \\   {} & {} & {} & {J_{{\lambda _n}}^{{d_n}}}  \\\end{array}} \right)

と表され、ジョルダン細胞J_\lambda^d

  • \left( {\begin{array}{c}   \lambda  & 1 & {} & {}  \\   {} & \lambda  &  \ddots  & {}  \\   {} & {} &  \ddots  & 1  \\   {} & {} & {} & \lambda   \\\end{array}} \right)

という形で表される。ここでi番目のジョルダン細胞について、\lambda_i固有値d_iジョルダン細胞のサイズを表している。ある固有値に対する縮退度はそれを固有値としてもつジョルダン細胞を全てとってきてそのサイズの総和をとれば得られる。



そこで前にだした、ブロックわけによる交換条件を使うと、

  • J^{d_i}_{\lambda_i} B_{ij}=B_{ij}J^{d_j}_{\lambda_j}

が成り立つべきである。

  • \lambda_i \ne \lambda_jの場合
    • 計算するとB_{ij}=0であるべきとなる。
  • \lambda_i = \lambda_jの場合
    • 交換条件を計算してみると、行列B_{ij}は斜めの要素では互いに同じ値となり、さらに右端と上端に交わらない斜め線上の値は0になるべきという結果が得られた。


一般の行列に対しては、工学部院試の共通数学の過去問にあるように、ジョルダン標準形への変換方法を考えれば導出される。すなわちジョルダン標準化が

  • U^{-1}AU=J_A

と表されるならば、交換される側について

  • J_B \equiv U^{-1}BU

とおくと、交換条件は

  •  \left[{J_A,J_B }\right] =0

と書き換えられるので、J_Bが上で述べたような形になることが条件であることが分かる。





:以下のジョルダン標準形

  • \left( {\begin{array}{c} {{\lambda _1}} & 1 & | & {} & {} & | & {} & {} & {} \\ {} & {{\lambda _1}} & | & {} & {} & | & {} & {} & {} \\ \hline {} & {} & | & {{\lambda _2}} & 1 & | & {} & {} & {} \\ {} & {} & | & {} & {{\lambda _2}} & | & {} & {} & {} \\ \hline {} & {} & | & {} & {} & | & {{\lambda _2}} & 1 & {} \\ {} & {} & | & {} & {} & | & {} & {{\lambda _2}} & 1 \\ {} & {} & | & {} & {} & | & {} & {} & {{\lambda _2}} \\ \end{array}} \right)

と交換する行列は

  • \left( {\begin{array}{c} {{a_0}} & {{a_1}} & | & {} & {} & | & {} & {} & {} \\ {} & {{a_0}} & | & {} & {} & | & {} & {} & {} \\ \hline {} & {} & | & {{b_0}} & {{b_1}} & | & {} & {{b_5}} & {{b_6}} \\ {} & {} & | & {} & {{b_0}} & | & {} & {} & {{b_5}} \\ \hline {} & {} & | & {{b_7}} & {{b_8}} & | & {{b_2}} & {{b_3}} & {{b_4}} \\ {} & {} & | & {} & {{b_7}} & | & {} & {{b_2}} & {{b_3}} \\ {} & {} & | & {} & {} & | & {} & {} & {{b_2}} \\ \end{array}} \right)

と表される。







楽しいから調べちゃったけど、こんなの何に使えるんだろうね(笑)




追記:これの帰結として、縮退がある場合は同時対角化(同時固有関数を作る)はできないが、同時ジョルダン標準化…ではなく(!)、同時(なんていうんだろう…)部分上三角化?ができることが言えてる。



知らなかったんだけれど

  • \left[{ A,A^\dag }\right]=0

が成り立つ行列は正規行列って呼ばれているんだね。この行列の固有ベクトルは直交完全基底を張るらしい。というかエルミートもユニタリもこれが成り立ってるからひょっとしたらこれなら直交完全基底を張るのかなーと予想したら予想が当たってちょっとうれしかったw